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回天回顧

 

("Nova Ragnarok Online - Monster Hunter: The Savage Coast "より)
NovaRO official/Monster Hunter Portal

 

荒れ果てし岸辺
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見知らぬ浜辺へとあなたは流れ着いた。磯の谷間に出来た礫交じりの砂浜である。あなたは陸へと眼を向ける。潅木が疎らに生えた傾斜地の先に、急峻な山塊が聳え立つ。岩肌を露にした山頂からはうっすらと噴煙が昇っていた。

 

谷筋に出来た小路をあなたは辿った。あてどなく進むうち、開けた場所に出た。広場の一隅に、数人の男女が集まっていた。彼らの物々しい装いを警戒しながらも、あなたは歩み寄る。身に纏う獣臭も誇らしげに彼らは名乗った、「俺達は、モンスターハンターだ!」。あなたは耳を疑い、言葉をなくした。と、不意に周囲が陰る。同時に誰かが叫んだ、「危ないっ、避けろっ!」。相対していた男は瞬時に身を翻し、大地を覆う影から逃れる。あなたは身を竦め、頭上を仰いだ。全天を遮る紫紺を最後に、あなたの意識は途絶えた。

気付くと、板敷にあなたは横たわっていた。痛む節々に顔を顰め、あなたは体を起す。眩暈に似た動揺が繰り返される。「翼竜(ワイヴァーン)号へようこそ」、管理官があなたに告げた。それは大型の木造帆船であった。積み上げられた資材の合間に、乗員が忙しく立ち働く。船縁からは、穏やかな海の只中に浮く孤島が遠望された。

(02:22 2020/01/29)

 

紫竜の領域
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所在無く釣り糸を垂れていると、あなたの肩を管理官が叩く。狩猟隊に欠員が出たと。停泊する翼竜号を降り、あなたは荒れ果てた岸辺へと渡った。野営地で待機していた狩猟隊があなたを迎える。新参者の参加を聞いた隊の面々は落胆の表情を隠さない。ぎこちない雰囲気の侭に、一隊は峠道を孤島の中腹へと登って行く。

砂礫に覆われた渓谷に行き着いた。岩尾根から一頭の翼竜が出現し、頭上を低く旋回する。翼竜の敵意を引くべく、隊の頭目が岩場へと躍り出る。彼を目掛け降下する翼竜、得物を構えた狩猟者が竜を迎え撃つ。傷を負った竜は、翼を激し打ち振るわせる。砂塵を舞い上げ、谷底を乱流が荒れ狂う。あなたが潜む岩陰へと、頭目の男が転がり込んできた。咳き込みながら男は言う、「瘴気の風だ、吸い込むなよ」。翼竜と対峙すべく、男は岩陰を走り出る。

 

大地に斃れた翼竜を、狩猟者が囲む。我先にと成果を剥ぎ取る彼らを、あなたは距離を置き眺める。鈍い緑色の鱗が投げて寄越された。「まだ若い竜だな、こいつは」男が言った。四肢の一部では、鱗が淡い紫色に変わっていた。齢を重ねるに応じて体色を変化させると、男はあなたに教えた。不意に、狩猟者のひとりが空の一角を指差し叫ぶ、「やばいっ、大紫竜(ガロナス)だっ!」。暮れ始めた空に浮く暗紫色の巨体を、あなたは呆然と見上げた。

翼竜の巨躯が落下し、渓谷が衝撃に揺れる。跳ね飛ばされた狩猟者が昏倒し、地面に横たわる。翼竜は大きく顎を開き、火球を吐いた。逃げ遅れたあなたへ火球が次々と放たれる。落下点を辛うじて逃れたあなたを、爆風が激しく煽る。あてどなく逃げ惑うあなたと、狩猟者の進路が交錯する。彼は抗議の声をあげるが、火球の飛来を察知し、大慌てで岩陰へと姿を消した。渓谷の裾に拡がり始めた薄暗がりを目指して、あなたは砂礫の大地を懸命に蹴り続けた。

(22:49 2020/02/01)

 

潮騒の残響
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あなたは所在無く釣り糸を垂れている。大紫竜に追い散らされた狩猟隊は、野営地へと逃げ帰った。隊の頭目は再遠征を訴えるが、損なわれた士気は戻らなかった。不首尾に終わった部隊の随員は他の狩猟者に厭われる。不運の伝播を彼らは恐れる。新たな狩猟隊への伝手もなく、あなたは所在無く釣り糸を垂れる。

潮騒に混じり歌声が聞こえてくる。あなたは海岸を見回す。南洋樹を生やした岬の裏側から聞こえる。心地よい音律に誘われ、あなたは海べりを歩いていった。竪琴を抱いた女の後姿が見えた。下肢を潮溜まりに浸し、美しい歌声を響かせる。あなたは女へと引き寄せられてゆく。数名の狩猟者が木陰から姿を現し、あなたを引き止める。「正気かっ、あれは海歌姫(ナイゾーリ)だっ!」、肩頬に一撃を受け、あなたは我に返った。海辺の女を見ると、こちらへと振り返るところだ。隠された下肢が露となる。鮮やかな青緑の鱗に覆われた、魚類のそれであった。

海辺の女は妖艶な笑みを浮かべ、竪琴を爪弾く。奏でられた音階は殷々と反響し、あなたの意識を鈍磨する。一隊の頭目が何かを叫んでいる、「拾えっ!音符を拾うんだっ!急げっ!」。胡乱に思いながらも、あなたは砂浜を見回す。点々と音符らしきものが落ちている。奇妙なことだと思いながらも、あなたは音符を拾い上げた。あなたは意識の鮮明さを取り戻した。試練を越えた狩猟者が、海歌姫に迫ろうとしている。あなたも、昏倒した狩猟者を跨ぎ越え、彼らに続いた。

 

竪琴に狩猟者の斬撃が食い込み、装飾の一部を弾き飛ばす。海歌姫は苛立ちを露にした。女の円舞に呼応し、氷柱が次々と立ち上がる。罠を逃れようと狩猟者は得物を振るうが、堅牢な檻は鋼を弾き返す。ひときわ大きく、潮騒が聞こえる。気配を増幅しながら、刻々と寄せて来ている。狩猟者は耳をそばだて、青褪める。濁流が押し寄せてきた。氷柱を乗り越え、すべてを飲み込む。最後にあなたは聞いた、海に消える命を悼む、物悲しい歌声を。

波打ち際に洗われ、あなたは意識を取り戻した。夢と現の境目は定かではなかった。ただ、あなたの懐には由来の知れぬ金の装飾が残っていた。

(16:29 2020/02/15)